PROFINET(プロフィネット)で標準化されたネットワークを構築し競争力を強化
製造業の競争力強化に必要なのは標準化されたネットワークの構築
インターネットはビジネスの世界に次々と大きな変化を起こしており、製造業においても競争力強化のためにはインターネットを駆使した変革が必要なのは言うまでもありません。
ドイツの産官学で取り組んでいるIndustrie 4.0はその変革の一例で、企業の継続的な成長のため現状にとらわれず、将来のあるべき姿をビジョンとして定め課題解決を図っています。近年では、市場に商品をいち早く投入するために、製造現場を迅速・スムースに立ち上げることを狙った取り組みが進んできています。
そのような背景の中、バリューチェーン(原材料の調達から製品・サービスが最終ユーザーに届くまでの企業活動)に目を向けると、現状は製造現場だけがインターネットに繋がっていないことに気が付きます。
今後の製造現場の課題は装置をネットワークで繋ぎ、デジタルプラットフォームを構築することと言えます。各所で絶えず最適化が行われているバリューチェーンにおいて、標準化された技術を採用し全体に渡り繋がるシステムを構築することが不可欠です。
製造現場のデータをどう活用し、新しい市場価値を提供し、新たなビジネス創出を狙うかを真剣に考える改革時期に来ています。
ここで言う標準化とは情報を伝える手段である標準データ通信TCP/IPに他なりません。製造現場でもTCP/IPデータを通してバリューチェーンに繋ぐと同時に、製造現場で求められる、リアルタイム性、可用性、柔軟性といった性能・機能を満たしているネットワーク構築が重要です。
それらを解決するネットワークの一つとして今回はPROFINET(プロフィネット)について詳しくご説明します。
PROFINETとは
PROFINETは、ドイツのシーメンスとPROFIBUSのユーザー組織(PNO)によって開発され、IEC61158とIEC 61784で標準化されたEthernetベースの産業用ネットワークです。
ドイツのPI(PROFIBUS&PROFINET International)によって規定・管理されており、日本においては日本プロフィバス協会にて普及活動、認証試験、コンサルタント等を行っています。
※PROFINETは以前ご紹介したセンサーネットワーク「IO-Link」とも相性の良いネットワークのひとつです。合わせて御覧ください。
PROFINETの特長
PROFINETはIEC61158とIEC 61784で標準化されており、製造現場で使われている産業用ネットワークとしてグローバルで最も普及しています。PROFINETには、次のような特長があります。
工場現場で求められる機能を全て統合
IOデータ、同期データ、機能安全信号、電力制御データ、診断データの他、インターネット標準の汎用通信TCP/IPで情報データも通すことができ、工場内外の設備・機器のデジタルプラットフォームを構築できます。
水平および垂直統合ができる柔軟なネットワーク
Ethernetで対応可能なあらゆるトポロジを速度、通信周期、ネットワーク負荷、可用性などを考慮して選択できます。上位アプリケーションとはTCP/IPデータの他、Industrie 4.0の推奨規格であるOPC UAであってもPROFINETケーブル上で通信できます。
制御データのリアルタイム性能を維持したまま情報データも共存
最短31.25μsまで仕様で規定され、制御データの厳密なリアルタイム通信が行えます。情報データと共存してもリアルタイム性能は維持されます。
なお、制御セキュリティに関しては、多層防御(Defense in Depth)のコンセプトが重要で、プラントセキュリティ、ネットワークセキュリティ、そしてシステムの整合性のそれぞれにおいて対策が必要です。産業用ネットワークが関係するのはネットワークセキュリティですが、PROFINETはOSI参照モデルに準拠しているため、先陣の、つまり銀行、鉄道、医療などの分野で培われたセキュリティ対策を反映できるようになっています。
制御データと情報データが共存する仕組み
PROFINETが制御データのリアルタイム性能を維持したまま、汎用通信TCP/IPデータとの共存が可能な仕組みを下図にて紹介します。
※RT:(Real-time)、IRT:(Isochronous Real-time)
上図は、OSI参照モデルにおけるPROFINETプロトコルの実装方法を示しています。この図を高速道路に例えて、PROFINETが制御データと情報データの双方を扱えることを下図に示します。
PROFINETの高速性能を実現する3つの技術
イーサネットのフレームは、おおよそ1500バイトが最大です。このデータを通過させるのに、100Mbpsのイーサネットで約120μs掛かります。このフレーム長は、TCP/IPデータにもPROFINETデータにも当てはまり、両データを交互に通すならば240μs以上必要になります。つまり、PROFINETで転送するリアルタイムデータ通信の周期は、250μs以上が必要です。
但し、実際にはPROFINETは最短31.25μs周期が可能です。250μs未満の通信周期を実現するには、下図に示す3つの技術を組み合わせています。この結果、PROFINETデータが非常に短い通信周期であってもTCP/IPデータと共存できます。
OPC UAと共存するPROFINETのメリット
OPC UAは、2015年4月のHannover Messeにて、工場内の制御ネットワークとIT系ネットワークを繋ぐ方法としてIndustrie 4.0で推奨すると発表がありました。PROFINETは、OPC UAデータ通信とも共存できます。PROFINETによるネットワークがあれば、OPC UAデータ通信のために別ネットワークケーブルを施工する必要がなく、下図に示すようなメリットが得られます。
PROFINETの各機能
高機能/高性能な設備導入だけでは今後の製造現場の改革は十分とは言えません。工場内外に渡り、汎用通信TCP/IPを活用していくことが求められています。PROFINETは将来を見据えて安心して採用できる産業用ネットワークです。PROFINETの充実した機能を以降に紹介します。
PROFIsafe
PROFIsafeは、一つのバスケーブルで標準および安全関連データの伝送を可能にします。フェールセーフ通信には、制限なしで標 準のスイッチとルータを使用でき、特別なネットワークは必要ありません。ワイヤレス通信であっても安全信号の転送が行え、ISO 13849-1 PL e、IEC 61508 SIL 3の安全規格に準拠しています。
PROFIenergy
PROFIenergyは生産設備が休止中はIOデバイスがシャットダウンする仕組みを備えています。昼の休憩時のような短い時間であってもPROFINETを介してIOデバイスへの電源供給を制御できるため、エネルギー消費コストを削減することが可能です。
ネットワーク上に接続された機器の電力モニタ、および電源オン/オフ制御が行えるため、付加装置なしに装置の待機電力を抑制できます。
PROFIdrive
モータ駆動装置であるドライブを用途の観点から分類したプロファイルです。同一分類であれば、制御プログラムを変更せずメーカ/型番を問わず置き換えが可能です。
i-Device
I-Deviceは、“Intelligent CPU as IO-Device”(IOデバイスとしてのインテリジェントなCPU)の略称です。この機能により、PROFINETでIOコントローラとして下位のデバイスと通信するだけでなく、他の上位コントローラもしくは中央コントローラに対してIOデバイスとして通信することが出来ます。
接続設定が容易で転送周期もリアルタイムに行えるコントローラ間通信です。高速転送が可能なため、従来実配線で行っていたインターロック信号等もネットワークを介して行えるようになります。
MRP (Media Redundancy Protocol) /MRPD (Media Redundancy for Planned Duplication)
MRPは、PROFINET RT通信で構成されたリングトポロジによる ルートの2重化(リダンダント)を行う機能です。IEC 62439にて標準化されています。 MRPは多くのPROFINETデバイスに実装されているため、特殊なスイッチ無しにリングトポロジを構成できま す。50台接続時のネットワークの断線時間を200ms以内とすることが可能です。
MRPDは、PROFINET IRT通信で構成されたリングトポロジによるルートの2重化(リダンダント)を行う機能です。IEC 61158にて標 準化されています。このMRPDでは、通信エラーが起きた場合、現在のパスからもう1 つのパスへ復旧時間無しに即座に切り替わる ことができます。システムがパワーアップするとき、IO コントローラはリング内で通信される2 つのパス(方向)を個々のノードへとロー ドしておきます。そのため、各ノードにとって、両方のパスが使えますから、通信ノードをすべて監視でき、どのノードがエラーを起こしたかすぐわかります。
Shared Device
複数コントローラからI/Oモジュールへのアクセスを許可することで、I/Oモジュールデータを複数コントローラでシェアする機能です。
シェアを可能にすることで、アプリケーションで必要とされるPROFINETインターフェースの数を削減できます。エンジニアリングは非常に簡単で、STEP 7上でIOデバイスの設定をコピーし、2台目のコントローラへ割り付けるだけです。
充実のプラグ&プレイ機能
デバイスの接続・離脱を500ms以内に行うFast Startup機能、現場への装置追加が簡単なアドレス一括自動割当て機能、I/OステーションやI/Oモジュールの構成を動的に変更可能なオプションハンドリング機能などがあります。
標準化された診断データ
PROFINET上の診断情報は標準化されているので、マルチベンダ環境でネットワーク接続機器の診断情報をプログラムの組み込みをせずにテキストで取得できます。
I&Mデータ
ネットワーク接続機器の各種バージョンの読み取り、設置場所/設置日の読み書きが行えるため、機能追加や設置場所の特定が容易になります。
シーメンスのソリューション
シーメンスではPROFINETおよびOPC UAに対応した機器を数多く取り揃えています。また、PLC、HMI、安全、ドライブなどを1つのツールで取り扱えるTIAポータルをリリースしています。
このTIAポータルでは、PLCプログラム以外にもPROFINET機器などによるハードウェア構成、タグ名など制御で求められるあらゆる設計資産をライブラリに登録できるため、標準化や再利用が容易です。データ資源を一元管理しているため、PLCプログラムのラダー接点からタグ情報をドラッグ&ドロップ操作によりHMI側で参照することもできます。
このように、Industrie 4.0に適合した制御機器・エンジニアリングツールの活用で、益々複雑化する制御を効率的、かつ統合的にエンジニアリングできる製品やソリューションを提案しています。
※シーメンス株式会社よりご寄稿いただいた原稿をもとに、高木商会が一部編集をいたしました。